hujiru12’s blog

観劇感想ブログです。

ヒモのはなし(東名組)感想

ヒモのはなし、東名組、大千穐楽、お疲れさまでした!!!

東京公演千穐楽の日に観たのが、私のファーストヒモのはなしだったので、自分の中で、一番ベーシックなヒモはなは、東名組のヒモはなになっています。

戯曲も読まずに観劇したので、耳慣れない言葉を上手く聴き取れなかったり、現実と虚実が交錯する台詞から物語の筋を拾いきれていない部分もあったのですが、気付いたら、ボロボロ涙を溢して泣いていました。頭で理解するんじゃなくて、感情を直接ぶん殴られるようなお芝居を体感した衝撃は、今でも鮮明に残っています。

なので、正直、感想を言語化するのがものすごく難しいのですが、東名組の素敵な役者さんたちへの全力の拍手を、拙いながら言葉にしてみたいと思います。

 


美智子役、青木志穏さん

東名組ヒモはなの、美智子と明美のシーンがとても好きです。

二人でレディサンフランシスコのダンスを踊るシーン、戯曲に書かれていた美智子と明美の踊りの対比、そのままだ!ということに感動しました。実は、ヒモのはなしの戯曲を読んだのは、東京公演を観てからだったので、初観劇した時はそのことは知らなかったのですが、脚の上がる高さとかステップの軽やかさとか、若い美智子の動きには付いて行けない明美の姿に、切なさを感じました。思わず見惚れて動きを止めてしまう明美を促す「ターンしますよ」という声の溌剌さが、眩し過ぎて、明美の胸の苦しさを一緒に味わいました。

ラストの明美の一人語りの後に、ニューヨークでオーディションを受ける美智子が出て来るところで、綺麗に「明美ができなかったトリプルターン」を決めるのが、物語の切なさを更に増させて、ぐぅぅって来ました。

父親のシゲとの関係は、恨みの感情があまり見えないのが不思議な感覚でした。たくさん苦労して来ただろうに、心の透明感を保ったままというか、世俗に塗れない強さを感じて、そこにも明美との対比を感じました。この透明感は、青木さんご自身がお持ちのものなのかな? と感じました。他の出演作も観たくなる素敵な女優さんでした!

 


学生役、山内涼平さん

女嫌いというか女性への免疫の無さを、頑なに合わせない目線で表現しているところ、絶妙な挙動不審さで、観る度にくすりとしちゃいました。物語自体は暗い方向性だけど、登場人物の個性の出し方で、喜劇の色を加えるのが、つか先生の作品の観せ方なのかなぁなんて考えてました。

東京で観た時より、名古屋公演の方が、学生の「ワーッ!」って騒ぎ方がレベルアップしていたような気がします。首の血管の出方がすごい!

明美さんのシャツを投げ捨てるそぶりをした後、裏で顔埋めて「いい匂い…」って呟く不器用すぎる恋愛の仕方、初心の方向性を間違えていて、好きです。

物語の後半で、明美に野次を飛ばす客の声が学生なのが、司法試験に合格して検事になったのに明美に執着する厄介客になっちゃった学生の未来を示唆しているという戯曲の解説を読んで、ゾクッとしました。そして、山内さんは、キチッキチッとし過ぎている家庭で真っ当な社会人になるように育てられた青年の中にある危うい歪みを仄めかすお芝居が上手いな…と感じました。東名組の野次は、お腹の傷痕じゃなくて、ボディラインの衰えに対するものなのが、明美の心を抉る言葉の刃の鋭さを感じて、ぐぅぅ…ってなります。

私の中ではナゴヤ座でのジロウさんのイメージが強い役者さんの、東京での成長を感じて、感慨深かったです!

 


みどり役、安藤絵美さん

今回の舞台で、一番意外性が高いというか、戯曲を読んでイメージするキャラクターと一番ギャップがあるのがみどりだと思います。

戯曲のつか先生語りの部分で、みどり役の女優さんをカリカリに痩せた方だったと書かれていた影響もあるのかもしれませんが、戯曲を読む前の初観劇の時も、「腎臓の病気で休んでいた」「脱いでもストリップにならない体」という言語情報から、病みやつれた体のストリッパーが脳裏に浮かんだのですが、目の前にいるのは、ヘルシー美女の代表(だと思ってます! 絵美さんのボディラインは私の憧れです!)の絵美さんなので、脳が一瞬バグりました。

東京組、名古屋組のみどりも、スポーティーな服装の元気いっぱいキャラなので、これは、敢えての配役なんですよね。そのあたりについて、演出の小川さんや創さんのお話を聞いてみたいです。

だけど、みどりとまことがストリップ小屋を出て行く時のシーンを観ると、みどりはこのみどりじゃなきゃいけないんだ…と納得します。どんな境遇でも、文字通り底が抜けてしまっている明るさを保てるみどり(だからこそ、世間一般の「普通の暮らし」には合わなかったんだと思うと切ないですが)が溢す「不安なんだ…」のいじらしさ、まことじゃなくても抱きしめたくなります!

だけど、結局、幸せにはなれなかったんですよね…それでも、みどりはきっと川崎で笑ってやっていると思います!(ちなみに、初見時は、咄嗟に「トルコ」という単語が「ソープ」に結び付かず、二人の顛末を理解できておりませんでした)

各組で個性出まくっているみどりのストリップ練習シーン、東名組のみどりの真顔がめちゃくちゃツボで、笑ってしまいました。

 


まこと役、熊倉巧さん

シゲ役の桃さんより年上の熊さんが「若いヒモ」役なのが、面白いなぁと思っていました。

実際に観てみたら、常に全力でエネルギー放出しまくっている熊さんは、確かに若いヒモでした。

だけど、手も脚も大きく広げて(あの姿勢の美しさに毎回見惚れました。体幹が強すぎる!)みどりに「来いよ!」と叫ぶまことの頼もしさは、三組の中でもピカイチでした。

それと、桃さんとの気慣れた空気がそう感じさせたのか、シゲに水を差し出すまことには、気遣いのできる大人の顔を感じました。

熊さんの振られたことはどんな無茶でも全力でやる人の良さと、大人の男の包容力が良い感じに滲み出たまことでした。

東京公演では、熊さんは、全てのステージに出演するというとんでもない偉業を成し遂げられていて、私が観に行った東京千穐楽では、目がバキバキにヤバかったです。「赤が降ります!」のシーン、正直、本気でビビりました…

名古屋公演では、まことの柔らかな内面も感じる全力さになっていて、常に自分の感情を素直に出すまことの言葉と、虚勢で飾り立てなければ本心を口にできないシゲの言葉の対比がよりくっきり見えた気がします。

バキバキにイッちゃってるまことも好きでしたが、名古屋公演のまことも観れて良かったです。

 


支配人役、大原千里さん

ヒモはなを初めて観た時に、一番怖いと感じたのが、支配人でした。地方の農村の住人達への差別意識バリバリの慇懃無礼(というには、オブラートが剥けまくっている気がしますが…)なストリップショー前の口上や、それまでニコニコしていたのに髪を乱された瞬間に豹変してシゲを打ちすえる姿と、その後の何かに憑かれたような足取りで去って行く後ろ姿…何を考えているのか分からない底知れない怖さを感じました。

ヒモはなの世界は「士農工商モカマ」というシゲの言葉どおりの価値観であるというつか先生の解説を読んだ時に、支配人の鬱屈した心が見えた気がします。冒頭のカマ狩りのような弄りが日常的に繰り返されていたら、精神もすり減りますね…

ヒモはなの時代背景では、オカマという言葉で一括りにされてしまっていたと思いますが、支配人は、ゲイセクシャル(結婚しているからバイセクシャルなのかもしれませんが、当時は自分の性的指向がどうであっても、ちゃんとした男は結婚するもの、という固定観念が強かった気がします)だと思って観ていました。今よりずっと性的指向による差別意識が大手を振ってまかり通っていた時代、支配人という立場なのに、オカマだというだけで、女に食わせてもらっているヒモに馬鹿にされるのは、非常に業腹だったと思います。

そんな中でも、ストリッパー達に気持ち良く踊ってもらうために、「てめぇが引き受けたんだろうが!」という言葉をぐっと飲み込んで、「俺、頭、下げるよ…」というシーンの緊迫感、薄皮一枚下の激情を感じてゾクゾクしました。

そのあたりの感情が解ると、持ち上げられると素直に喜んじゃう可愛さも含めて、とても人間らしいキュートな人物なんだな、と感じるようになりました。

そういう機微を見せるお芝居が上手過ぎて、大ベテランの俳優さんなんだろうなと思っていたので、千穐楽のカテコで、50歳からお芝居を始めたというのを聞いて、めちゃくちゃ驚きました!

 


明美役、木本夕貴さん

艶々サラサラの長い髪と、華奢な骨格、気を許した時に見せるとろんと溶けるような笑顔…木本さんの明美を見る度に、可愛いぃぃぃ! と心の中で叫んでいました。

最初の美智子と初めて顔を合わせるシーン、最初は警戒して威圧的な態度を取っているのに、ダンスが好きという共通点を見つけた瞬間、少女のような屈託ない笑顔になるところ、木本さんの明美の素直さを感じて大好きです。本当に踊りが好きなんだなぁ…シゲが恋に落ちた17歳の明美の姿が思い浮かびます。

だから、ラストの方のレディサンフランシスコの再現シーンの、「そんなに踊りが好きかい?」「あぁ!」のところで、めちゃくちゃ泣いてしまいます。

初観劇の時は、物語を追うのに必死で、台詞の意味を2割も理解できなかった(何度か観劇した今も、半分理解できたかどうかという気がします)のですが、シゲに後ろから支えられながら小さい子どもみたいに泣きじゃくる明美の姿や、その後の、光の中一人で立ち思いを並べ立てる明美の姿を見ているだけで、ぼろぼろ涙が溢れて来ました。

三組の明美を観て、東名組の明美が一番、男を許してしまう優しさと、甘える時は全身を預ける素直さを感じたので、これは、男をダメにしちゃう女性だ!という説得力がありました。だからこそ、幸せになって欲しい……こんなに可愛い女、みんなが傘を差し出すよー!

明美の、ベージュトーンのルームウェアみたいな衣装に、赤いリップと赤いペディキュアという組み合わせがたまらなくセクシーでした。気怠く髪を掻き上げられると、もうダメ…恋に落ちちゃいます。

カマ狩り警部の時の何キャラなのか分からない口調が、なんとも言えずクセになりました。みどりをはじめ、他の踊り子さん達にも、面白くて気風の良い姐さんとして慕われてるんだろうなぁ。

 


シゲ役、安田桃太郎さん

初めて観た時、とにかくその台詞量に驚かされました。つか先生の作品の特徴なのでしょうか、普通の会話がそのまま台詞として書かれているような、前後の脈絡が飛んだり、間に本筋とは関係ない話題が挟まったりするので、これを全部頭の中に入れて、しかも、ただ暗誦するだけじゃなくて、そこに感情を乗せてシゲの言葉として発するの、めちゃくちゃ大変なことをされている!と、衝撃を受けました。

名古屋組のヒモはなでは、創さんの演出で、台詞が幾分か分かりやすく整理されていますが、東京組、東名組は、ほぼ原作のままの台詞になっていて、初観劇の時は全然意味を掴みきれませんでしたが、ただただその迫力に圧倒されました。

桃さんのスピード感がある台詞回しの抑揚が心地よくて、流れの速い川の水の動きを眺めているような気持ちになりました。

観る回数を何度も重ねるうちに、物語の姿が見えてくる。初めて観る時は、意味が理解できていなくても、舞台から押し寄せる熱量に心臓を殴られたような衝撃を受ける。観劇の面白さというものを体感する作品だと思います。

だけど、その感情を直接揺さぶられる感動は、桃さんを中心にした演じる役者さん達の魂を搾り出すようなパワーがあるからこそなんですよね…!

配役を見た時、シゲ役の三人の中で、一番桃さんがヒモが似合うような気がしました。でも、実際に観てみたら、一番似合わない…というか、一番ヒモである境遇に苦しんでいるのが桃さんのシゲに見えました。

自分にできることがあるなら進んでやる、というのは、南さん、桃さん、トラザさん共通の性質だと思いますが、中でも一番エネルギッシュに道を切り拓いて行くのが桃さんだという気がします。だから、ためになることを何もせず、ただ、この場所で踏み止まって生きるための重石になるだけの生き方がしんどくて堪らない…という印象を受けました。

だから、どのシーンのシゲも、痩せ我慢をしている感じが強くて、レディ・サンフランシスコを演じた明美が去った後、溜まりきった鬱屈を吐き出すようにダンボールを蹴飛ばす姿がとても切なく、胸に刺さりました。

千穐楽回を、ステージの脇で観せていただくという贅沢を味わわせていただいちゃったのですが、叶うことなら、自分があのダンボール役をやりたい!と思ってしまいました。

熊さんとの関係がそう感じさせるのかもしれませんが、まことがみどりを連れて行き、一人で残されたシゲが、裏切られた…という顔をしているのも、ぐっと来ました。

桃さんのお芝居をたっっっっっぷり浴びることができて、最高でした!