hujiru12’s blog

観劇感想ブログです。

サンスケの日に名古屋山之助さんについて書いてみた

3月4日はサンスケの日ー!

ゴヤ座(http://nagoya-za.com/)の名古屋山三郎一座の副座長、名古屋山之助(なごやさんのすけ)さん。オオムコウ(歌舞伎などで舞台上の役者に対して投げる声援。ナゴヤ座では難しいルールなどなく観客誰でも自由に飛ばせます)は、サンスケ! 座員カラーは赤!

ゴヤ座には現在(2023年3月4日)研修生を含めて12人の座員がいますが、名前に山の字が付くのは、座長のサンザさん、副座長のサンスケさん、そして2016年12月に卒業されてしまった名古屋山平太(ペータ)さんの3人の初期立ち上げメンバーだけです。山の字を持つお二人が、現在の正座員、残りのメンバーが平座員(最年長座員のダエモンさんが自称するからそう覚えちゃいましたが、呼び名ってこれで良いんでしょうか?)です。山の字を持つお二人を、屋号っぽく山屋と呼んだりもします。プチ解説終わり。

 

私が初めてナゴヤ座に行った時、サンスケさんは天照大神の役をされていました。最高神だし(なのに、なぜか、座長が演じる月読尊の方が偉そうでした)、太陽を司る完全な陽の存在だし、当時のサンスケさんは今よりだいぶんストレートに二枚目キャラ路線だったので、正直なところ、めちゃくちゃ警戒しました。陽キャな若いイケメン、怖いじゃないですか…

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だけど、アフタートーク(当時のナゴヤ座は、前半がお芝居、後半がアフタートークの二部制でした)になったら、気配りの行き届きまくったホスピタリティに、優しい…!と、警戒心が一気に解けました。

当時は、岡崎の方で某武将様にお体を貸されていたというサンスケさんの経歴を存じ上げなかったのですが、そのおもてなし力の高さには、ナゴヤ座に通い始めた頃から尊敬の念を抱いて来ました。私のような経験をしたナゴヤ座ファンの方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。サンスケさんの笑顔には、人を安心させる力があります。

と、柔和な印象の強いサンスケさんですが、その芯にあるのは、めちゃくちゃストイックで負けず嫌いな誰よりも男らしい心なんじゃないかと思います。負けず嫌いと言っても、誰かと争うわけじゃなく、自分自身に対して負けるかー!って気持ちが強くて、どんな大変な場面でも歯を食いしばってやり遂げてしまう。

しかも、一番しんどい時には、絶対にしんどいとは言わない。全然大丈夫って顔をして重たい荷物をちゃんと運び終えてから、「あん時は大変だったんやー」と弱さを見せてみたりする。そういうところも含めて、サンザさんとは違ったやり方で、名古屋山之助像を作り上げている、頭のキレるセルフプロデュース力を感じます。

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源九郎義経

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弁天小僧菊之助

主役を演じることが多いサンスケさん。ご本人は「いやいや、何言うとんねん」とおっしゃいますが、やはりナゴヤ座の花形はサンスケさんだと思います。

主役が何パターンもあるという凄い進化を遂げたナゴヤ座の配役シャッフルシステムの中でも、やはり、新演目スタート時の主役を担うサンスケさんの力量は、お芝居の上手さという意味でも、一番しんどい期間を走りきる体力的な意味でも、ものすごいです。

サンスケさんには、特別ではない少年が皆と力を合わせて大きなことを成し遂げるという少年漫画の正道を行くストーリーの主役が似合いますが、単なるヒーローではなく、ほんのりと切なさを香らせるのが、サンスケさんのお芝居の巧みさだなぁと感じます。弱さを覗かせる匙加減が天才なんですよね。

そして、より物語の筋が伝わりやすく、より面白く感動するものにと、公演数を重ねる度に進化して行くナゴヤ座の作品の中で、誰よりも細かい工夫を重ねつつも、初演時までにしっかり作り上げた主役のキャラクターのスープの味は変えない。他の配役が変わることで関係性に大きな変化が感じられても、サンスケさんが演じる主役のキャラがぶれないから、YOSHITUNEなら義経の、BENTENなら弁天小僧菊之助の、SEIMEIなら安倍晴明の、風来ボウイなら森の石松の物語だという作品の根幹は揺るがない。そうやって出来上がったところに、新しい主役を入れて全く別の作品のように味付けを変えちゃうところがナゴヤ座の面白さですが、それを楽しめるのも、サンスケさんが最初にしっかりベースを作り上げたからだと思います。

難しく書き過ぎてしまいましたが、演目の再演時に、サンスケさんが演じる弁天小僧や喜多さんが出て来ると、「おかえりー!」って叫びたくなる。そういうことです。

ところで、私は、三十代後半になって出て来たサンスケさんの漢の色気を感じる石松がとても好きです。この路線の女好きキャラとか演じていただきたいです!

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陽のイメージが強いサンスケさんですが、悪役を演じるとその印象がガラッと変わります。人外の怖さではなく、人間の怖さ。何かが欠けていたり、大切な何かを失ってしまったりした人間の箍が外れる瞬間の恐ろしさを演じる時、サンスケさんが見せる狂気は、背筋が凍る気迫があります。

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SAZENの相馬大膳亮は、人間としての自制心が欠けたまま育ってしまった大人でした。虫の手足を千切って無邪気に笑う子供のように左膳を痛ぶる姿が、怖かった…

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サンスケさんの魔苦減須は、とても普通の男でした。だからこそ、半身であり共犯者でもある妻を失ってしまった瞬間、人としての心がガラガラと音を立てて崩れ落ちる様が、切なく、とても恐ろしかった。

心身を削る役である魔苦減須を、一ヶ月演じきった時のサンスケさんには、鬼気迫るものを感じました。この時、穏やかで気配り上手なサンスケさんの、魂の本質のようなものを見た気がします。芝居にストイックな負けず嫌い。名古屋山之助さんは、本当にカッコイイ漢です。

サンザさん不在時に座長代理を務める時は、サンスケさんのサインが、いつものものではなく、ひらがなで「のすけ」と書くバージョンに変わるのですが、ナゴヤ座の看板を背負う重責を担っている時の方が普段より可愛いサインになるのが、なんだかサンスケさんらしくてニッコリしてしまいます。

 

サンスケさんは、頭の回転がとんでもなく速く、周囲を見る視野が広いので、お芝居のバランサーとして立ち回られることが多いですが、最近ではその役割を担える座員さんも増えて、メイン以外の役で好きに遊ぶサンスケさんも観れるようになりました。

サブキャラを演じる時のサンスケさんは、すごくイキイキしています。温存していたネタをてんこ盛りにして、クセの強い(だけど確実に愛される)キャラを演じて、お芝居を全力で楽しみながら、それでいて、何度も観た作品にハッとする気付きをもたらしてくれるスパイスを仕込んで来る。ロングラン演目の終盤戦で観るサンスケさんの脇役のお芝居には、やられたー! という気分にさせられることが多いです。爽快な白旗。

作品の面白さをどこまでも突き詰めるべく24時間脳味噌をフル回転させ続ける、頭が良過ぎて540度回って逆にすごく馬鹿にもなってしまえるサンスケさんは、きっととんでもなく深い芝居愛を持つ役者さんです。

お芝居のことばかり語ってしまいましたが、サンスケさんは殺陣もすごいです。運動神経がハイスペックでだいたいの立ち回りをやれてしまう上に、自分が一番魅せられる動きを解っていらっしゃる。そして、人離れした動きをするサンザさんや、アクション技術のズバ抜けたトラザさんの本気に、ピタリと合わせてしまうサンスケさんは、とても凄い。

しかも、最初からできてしまっていたから気付きにくいけれど、演目毎に進化して行くナゴヤ座の殺陣に合わせて、どんどん技術を上げて行かれている。私が初めて観た時のサンスケさんの立ち回りと、今のサンスケさんの立ち回りとは、全然別物になっていると思います。きっと、そこにも、サンスケさんの自分自身への負けず嫌いさが現れているんだろうなぁ。

 

ご自身の好き! がハッキリ定まっているファッションセンスにも、サンスケさんらしさが溢れています。粋でありながらほんのりと可愛らしさもプラスする、サンスケさんの和装オシャレ術、とてもステキです。

オシャレで美味しいお店の情報もいっぱい持っていらっしゃるので、円頓寺商店街で行くお店に迷ったら、サンスケさんに聞いたら間違いないです。どういうものが食べたいかを確認して、的確なオススメをくださる…やっぱりサンスケさんのホスピタリティはすごい!

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私が初めてナゴヤ座に行った時の、正統派二枚目役者から、ナゴヤ座版二枚目(ユーモアがある男が一番モテる)に進化しているサンスケさん。これからも、論理的な思考力と熱い芝居欲を両輪に、ナゴヤ座の花形としても名脇役としても、ご活躍されてください!